リスケ計画をひっくり返し、まんまと曙ブレーキの主な事業資産を手中にしたドイツ銀。みずほ銀に代わるメインバンクとして支える覚悟はあるのか。
2024年11月号 DEEP
自動車ブレーキ大手の「曙ブレーキ工業」は6月28日、ドイツ銀行東京支店をアレンジャーとする320億円のシンジケートローンを調達して同月末が期限だった既存借入金のリファイナンスを完了した。なぜ主力のみずほ銀行ではなく、ドイツ銀が出てきたのか。驚きの舞台裏を関係者が明かした。
2019年にスタートした、560億円の債務免除を柱とする「事業再生ADR手続き」の出口にあたり、残る負債490億円の返済にどう対応するかというのが曙ブレーキ最大の経営課題だった。再生計画の策定はパンデミック前だったため、曙ブレーキの業績は計画から大きく乖離する結果となり、想定した返済原資を捻出できなかったのは仕方ない面がある。銀行団は、保有するトヨタ株を売って返済に充てることを条件に残額については改めてリスケに応じるというスキームでほぼまとまっていた。
ところが土壇場になって一転リスケに応じないと言い出した銀行があった。ドイツ銀である。実はADR成立後、ドイツ銀の不良債権部隊は三井住友銀や三菱UFJ銀から曙ブレーキ向け貸出債権を次々買い取った結果、今年3月末時点の曙ブレーキの主な借入先は、みずほ75億円、三井住友信託銀76億円、ドイツ銀100億円。額面上はドイツ銀が筆頭債権者となっていた。ドイツ銀がリスケに応じないのであれば、曙ブレーキは倒産するほかない。
絶体絶命のピンチに直面した経営陣にドイツ銀は代案を出した。「条件次第ではシンジケートローンを組成して借り換えに応じることができる」。返済期限はすぐそこまで迫っている。選択の余地はなかった。
その結果どうなったか。ドイツ銀から期間5年で320億円借りる担保として、従来無担保の不動産や工場の機械装置(動産)、関係会社株式、関係会社短期貸付金(債権)を差し入れることになった。担保提供資産の簿価は505億円。しかも金利は4.19545%とべらぼうに高い(前期は2.26%)。7月以降、海外子会社の資産なども担保に入ることが決まった。つまりドイツ銀が主な事業資産を押さえてしまったのだ。
ドイツ銀はみずほに代わる曙ブレーキのメインバンクになる覚悟なのだろうか。本誌の質問に対し、広報担当は「個別取引の詳細について回答は差し控えるが、曙ブレーキの自動車業界における実績および技術力を高く評価しており、主要金融機関として持続的な成長をサポートしていく」と回答した。成長には研究開発費など多額の投資がいる。事業再生に詳しい銀行マンは「ドイツ銀が日本式のメインバンクとして曙ブレーキを支えるとは考えにくい。5年以内にどこかに債権を売るつもりだろう」と予想する。曙ブレーキは取材に「ドイツ銀との関係は良好だが、人材を受け入れる予定はない」などと回答した。
曙ブレーキを翻弄した今回のドイツ銀の交渉術は銀行界でめっぽう評判が悪い。320億円はシンジケートローンといいつつ、時間的制約から最初ドイツ銀が単独で出し、あとで参加行を募る形をとったが「みずほ、三井住友信託など既存行がそっぽを向いてしまい、ほとんど集まっていない」(同)。曙ブレーキとドイツ銀はこれからうまくやっていけるだろうか。