村上ファンドが買い増し/アルミ圧延世界3位「UACJ」危うし

親会社の古河電工からの自立は着々と進むが、旧村上ファンドの攻勢はかわせるのか。

2024年11月号 BUSINESS

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「何とか最下位は免れて良かったけれど、大枚をはたいただけの効果は果たしてあったのか。相変わらず知名度は低いまま。何の会社か知る人が少ない」

5代目当主死去で手打ち

ヤクルトスワローズ選手のユニフォームには「UACJ」の文字が躍る

Photo:Photo;Jiji

アルミ圧延の国内最大手で世界3位、UACJの中堅社員は自嘲気味に話す。同社は2024年からプロ野球、東京ヤクルトスワローズとトップスポンサー契約を結んだ。ホームゲームのユニフォームの右袖にはUACJのロゴが入り、神宮球場のバックネット裏に看板も掲げた。しかし今シーズンは中日ドラゴンズと最下位争いが続き、シーズンは5位で終了。スポーツ新聞などメディアの注目度も低いままだった。

UACJは13年に古河電気工業の子会社である古河スカイと住友金属工業(現日本製鉄)系の住友軽金属工業が統合して発足した。知名度向上は悲願だったのだろう。昨年10月には創立10周年を記念して社歌を作り、25年末までに産経新聞社が入る大手町の東京サンケイビルから港区の東京三田ガーデンタワーに本社を移転する。「いずれも独立に向けた動きなのだろう」と業界関係者は話す。

UACJの筆頭株主である古河電工は今年6月、保有していたUACJ株の一部(260万株)を売却したと発表した。これにより保有株比率は25.2%から19.75%に下がり、UACJは古河電工の持分法適用会社から外れた。「残り全株式の売却について検討が進んでいる」と関係者は言う。

もう一つの主要株主だった日本製鉄は22年9月までに、保有していたUACJ株(約8%)を全て売却した。「保有する意味合いが見出せなかった」と日鉄関係者は振り返る。

UACJでは18年、役員人事を巡って古河電工との間でお家騒動が起きた。当時会長だった山内重徳は留任、社長の岡田満が副会長、新社長に石原美幸が就き、3人に代表権が付くという人事案を公表したところ、古河電工が猛反発した。

「山内と岡田に代表権が付くなんておかしい。三頭政治になってしまっては石原が手腕を発揮できない。そもそも統合から3年程度で統合効果を出し、次の世代にバトンを渡すと言っていたじゃないか」。古河電工側はそう批判したが、UACJ側は代表権3人体制にこだわった。

というのもこんな事情があったからだ。合併の立役者は住軽金社長だった山内と古河スカイ社長だった岡田。それぞれUACJの会長、社長に就いたものの、売上高で上回る古河スカイが経営の主導権を握るとみられていた。もっとも技術力や人材の豊富さでは住軽金の方が何枚も上手で、「大きい方が偉いという古河電工の短絡的な発想は受け入れ難かった」と当時を知る関係者は振り返る。

業績が低迷した古河電工が立て直しに向けてアルミ部門を切り離して誕生したのが古河スカイ。「旧古河スカイには親に見捨てられたという思いもあった」(関係者)という。住軽金と古河スカイ双方とも、古河電工に対し経営への口出しを阻止する意図が代表権3人体制の主張に込められていた。

古河電工とUACJ。双方とも譲らず、株主総会での委任状争奪の可能性が高まったが、幕引きは意外にあっさりしていた。 18年3月に古河財閥5代目当主の古河潤之助が亡くなったのだ。1995年に古河電工の社長に就任するなど、古河グループの象徴的な存在だったが、その死去により「角を突き合わせている場合ではない」と和解がムード広がった。

結果として、山内と岡田が取締役を外れて相談役に退いた。こうしてお家騒動は終息したが「古河電工との深い溝は残った。業績低迷が続けば、再び同じように人事が振り回されるのでないかと懸念が出た」とUACJ関係者は話す。

旧古河財閥は、創業者である古河市兵衛が1875年に鉱山経営に乗り出したことに始まる。その後、足尾銅山を買収するなどして事業を拡大、84年には現在の古河電気工業を立ち上げて精銅事業にも進出した。

この企業集団が三菱や三井、住友といった他の旧財閥に比べて地味な存在なのは、銀行業務から撤退したことが大きい。古河商事が豆かすの投機に失敗し、巨額の債務を抱えた。その処理で財閥の中核だった古河銀行や古河商事が事実上消滅。金融業を手掛ける中核企業がなくなったことで、グループの紐帯は失われていった。

もっとも旧古河財閥の特筆すべき点は、中心となる企業がなくなったことで、グループ企業に自立心が芽生えたことだ。先の古河電気工業と独シーメンスの合弁で誕生したのが電気機器製造の富士電機。富士電機の通信機器部門が独立して誕生したのが富士通だ。

富士通はコンピューター事業で活路を開き「野武士集団」として米IBMと張り合った。その富士通の数値制御部門が独立してファナックが生まれている。「親会社が子会社の面倒を見る余裕はなく、子会社は自立心が備わった」とグループ会社幹部は話す。

このDNAは今も生きているようで、古河電工は足元でグループ企業の資本整理を進めている。22年には上場子会社だった東京特殊電線(現TOTOKU)を投資ファンドに売却、今年7月には古河電池を投資ファンドに譲渡すると発表した。

いずれも仕掛け人は18年のお家騒動で、古河電工サイドを代表した会長の小林敬一。「策士として知られる小林は在任中にUACJ問題に決着をつけるだろう」(同社関係者)。UACJ側が自社株買いで古河電工の持ち分を解消したり、事業会社やファンドへの譲渡などいくつかのシナリオが検討されている。

村上相手に的は外せない

UACJにとって気がかりなのは旧村上ファンド系の投資会社エフィッシモキャピタルマネージメントが18年からUACJの第2位株主として睨みを利かせていることだ。「うちの株式を保有しているのは事実だが、何か特別に要求されたりはしていない」とUACJ幹部は平静を装うが、エフィッシモは9月に保有株比率を17.01%から18.15%に増やしている。

「古河グループの企業は親離れするノウハウは十分に持っている。しかしアクティビスト(物言う株主)に対応するノウハウはあるのだろうか」(大手証券ストラテジスト)。トップスポンサーになったヤクルトがセ・リーグ5位で終わっても「失敗しちゃった」で済むが、エフィッシモ相手に「失敗しちゃった」は許されない。(敬称略)

   

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